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東京地方裁判所 昭和31年(モ)839号 判決 1956年10月22日

申立人 石田嘉子

被申立人 武井好幸

主文

当裁判所が、右当事者間の昭和二十八年(ヨ)第六、〇九六号不動産仮処分申請事件について、同年八月二十一日した仮処分決定は、取り消す。

訴訟費用は、被申立人の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に、執行することができる。

事実

第一、申立人の主張

申立人訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、その理由として、次のとおり述べた。

被申立人は、申立人に対し、東京都新宿区角筈一丁目八百四十四番地宅地二十坪三合二勺について賃借権を有すると主張し、これを保全するため、東京地方裁判所に仮処分の申請をしたところ、同裁判所は主文第一項掲記の仮処分決定をした。そこで申立人は昭和三十一年六月、同裁判所に、いわゆる起訴命令の申立をしたところ、同裁判所は、同月七日被申立人に対し、十四日以内に右仮処分事件の本案訴訟を提起しなければならないとの命令を発し、この命令は、同月十二日、被申立人に送達された。しかるに、被申立人は、右の期間が経過しても、本案訴訟を提起しない。

よつて、民訴法第七百五十六条、第七百四十六条により、前記仮処分決定の取消を求める。

第二、被申立人の主張

被申立人訴訟代理人は、申立人の申立を棄却するとの判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

被申立人は、申立人主張の起訴命令に従い、昭和三十一年六月二十六日、新宿簡易裁判所に、申立人外一名を相手方として、本件係争土地に対する賃借権の確認を求めるため、民事調停法に基く、調停の申立(同裁判所昭和三十一年(ユ)一〇七号)をした。この調停申立は、本件仮処分事件の本案訴訟に該当するものである。よつて申立人の本件申立は、その余の点について述べるまでもなく失当である。

第三、疏明<省略>

理由

申立人主張のような仮処分決定がなされ、起訴命令が被申立人に送達されたことは、記録により明らかである。そこで被申立人が、起訴命令に従つて本案訴訟を提起したかどうかについて考察する。成立に争いのない乙第一号証によれば、被申立人が昭和三十一年六月二十五日その主張のような調停の申立をしたことが認められ、被申立人は、この申立が民訴法第七百四十六条にいわゆる本案訴訟に該当すると主張する。しかし、民事調停法による調停は、同法第一条の規定しているように、民事に関する紛争について、調停当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とするものであつて、当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、その記載は、同法第十六条により裁判上の和解と同一の効力を有するが、当事者間に合意が成立しないときは調停は成立せず、紛争解決のため、さらに、訴を提起するなどの手段によらなければならないから、調停の申立は、被保全権利の終局的確定を確保しているとは言えない。よつて、被申立人が前記の調停を申立てたことをもつて、民訴法第七百四十六条にいうところの本案訴訟を提起したものと解するのは相当でなく、他に、被申立人が右の本案訴訟を提起したことについての主張疎明はない。

以上の事実によれば、本件仮処分決定の取消を求める申立人の申立は、理由があるので、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八十九条、仮執行の宣言につき、同法第百九十六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 栗山忍)

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